Isabelle Adjani Interview

このインタビュー記事は、1977年4月号のスクリーンに記載されたものを全文掲載したものです。

インタビューアー/クレール・デュバル(Claire Duval)
日本語訳/清水千代太

 イザベル・アジャニーはスターや天才子役とはぜんぜん共通点がない。まるで違った存在である。すばらしい美女ではないけれども、美人以上にすばらしいものを持っている。人を魅惑する豊かな表情と深く感動させる魅力がある。年ごろの若い女性にはめったにない彼女の個性がまたたく間にあなたを征服する。知性と教養に恵まれているので、イザベル・アジャニーの表現力は強い共感を与える。とてもはにかみ屋で、内気なので、無意味なおしゃべりをするのは好きじゃない。
 彼女の立ち居振る舞いはお行儀がよすぎるために、やや高慢ちきに見えて嫌みな感じに誤解されないでもないが、本当は彼女の人並みはずれた知覚過敏のせいなのである。
 リノ・ベンチュラとアニー・ジラルドと共演した「平手打ち」の撮影が終わると、イザベルはフランソワ・トリュフォーに頼まれて「アデルの恋の物語」で、女主人公アデルを演じて国際的な映画女優にのし上がった。アデルは大作家ビクトル・ユゴーの娘に生まれながら、情炎に身を異郷のあばら屋に滅ばしてしまうが、このアデル・ユゴーの役をイザベルは完璧に演じて、世界の最大級女優の一人に彼女を並ばせるに至ったのである。私のインタビュー申し込みは何回も拒絶されたが、私は根気よく要請を繰り返してついにイザベルに同意させることに成功した。
 私はあるバーで顔を見合わせて坐り、彼女はフルーツ・ジュースをチビチビすすって、私の顔をまじまじと大きな緑色の瞳で見て困惑の沈黙を続けた。しかし、ついに私の説得に頷いて、私の質問に一々考えながら答えてくれたのである。



Q- アジャニーはあなたの本名ですか。フランスの姓ですか。
A- アジャニーは父の姓で、父の祖先のトルコの姓です。母はドイツ人ですわ。

Q- そんな若さで、どうしてコメディー・フランセーズの劇団員になれたの?
それもコンサルバトワール(演劇音楽学院)で勉強しないで?
A- モリエールの「女の学校」を上演準備中の演出家がアニエスの役を演じるすごく若年の女優がいなくて困りきっていたんです。その方が私を見て宣言したのよ、アニエスがここにいる! 1回のオーディションで、私は契約されたんです。アッという間だったわ。これが私のコメディー・フランセーズ入団のすべてよ。

Q- どうしてこの職業を選んだの? それが天命だったの?
A- ウソみたいでしょ。でも本当なの。偶然だったけど。ある日私がまだリセ(高校)の学生だったとき、ある助監督が映画の新顔さがしに来て、とたんに私に白羽の矢を立てたわけ。私、14だったわ。続いてニナ・コンパネーズが「夏の日のフォスティーヌ」の小さい役を私にくださった。次が私のコメディー・フランセーズ入りってわけ。現在ではこの職業は私にとって真の天職になってるわ。私の生きがいよ。

Q- こんなにも急速な成功をしたことを、どう受け止めてるの?
A- 私、自分を天才女優だなんてぜんぜん思わない。私はお芝居をするのが大好き。ものすごく張りきって、とても真面目に勉強しているわ。私にとって、成功は私がいつも精いっぱい努力していることへのご褒美なのよ。

Q- あなたはインテリぶってお高く止まってるという評判があるようだけど、どう?
A- フランスで1年間にもっとも嫌われた女優に送られるシトロン賞を、私はいさぎよく受けます。実際、私はジャーナリストにとても非協力です。インタビューにも私はめったに応じないわ。でも私、時間がつぶれるのが怖いのよ。しなければならない事がいっぱいあるわ。本を読み、セリフを覚え、自分自身を鍛えなければならない。私は完全主義者でありたいの。だから自分の宣伝に費やしてしまう時間が、そんなにないんです。

Q- 愛するための時間は少しくらいあるの?
A- 愛。私が演じるすべての人物と愛を経験しているわ。彼らを観察すれば私はいつも愛を感じるわ。彼らを理解しようと努めることは彼らの皮膚の中に私自身を埋めることのなるんじゃないかしら。

Q- 人の意見をあなたはどう思う?
A- 私自身の意見が一番だと思うわ。しかし、他人の意見にも敏感に感じるわ。

Q- 女権論について。
A- 女性解放を支持します。性別・人種別・宗教別を超越して人間の権利を行使すべきよ。でも私個人としては、私は過激派じゃないわ。

Q- あなたの好きな女優は?
A- キャサリン・ヘップバーンの品格と才能を大いに尊敬するわ。映画女優としては現在にいたるまでグレタ・ガルボが最高の一人だと思ってるわ。

Q- あなたの好きな男優は?
A- ローレンス・オリビエは完全な俳優です。すばらしい肢体美を持ってて。

Q- ポルノは?
A- 崩壊しようとする一つの文明を表現しているわ。私の世代を強迫する漠然たる不安ね。私たちの世代は疲れてしまっている、「アデルの恋の物語」の成功がその証拠よ。

Q- 演技のほかに何か野心は?
A- お芝居を演じることが私の生きがいよ。私自身の最高と最大を表現することが私の野心です。



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